【Book】ビジネスツールとしての知的財産

概要

タイトル通り、ビジネスツールとして必要な知的財産に関する知識を、漫画形式で優しく伝えている書籍です。

本書の中では、日本発のAIベンチャーが米国の巨大IT企業に立ち向かう、というストーリーを通して、ビジネスと知的財産がどのように関係しているのかを少しずつ解き明かしていく中で、自然と学びを深められるようになっています。

知的財産というとっつきにくいテーマに触れるためのきっかけの一冊としてはふさわしいでしょう。

詳細な説明は極力そぎ落としていますので(それが本書の目的であり魅力でもある)、もし本書で興味を持ったら、体系的に整理された別の書籍で学びなおすと良いでしょう。

新規事業の立ち上げでも重要な知財戦略

新規事業を立ち上げるといえば、新しい斬新なアイデアとか技術の組み合わせでどのように収益を得るか、ということを中心に考えることが多いです。

そちらの方が圧倒的に楽しいし、エンジニアにとっては自分の技術をビジネスに具現化できる手応えを感じることが出来るためです。

ところが、知財戦略についてきちんと考えている人はそう多くは無いのではないでしょうか。

知的財産を「守り」から「攻め」へ転換する

本書を通読して感じたことは、知的財産は「守り」ではなく「攻め」のツールとして活用すべき、ということです。

これまで知的財産に関する勉強を避けてきたのは、「時間をかけて学ぶほど得るものが無い」と勝手に理解していたからなのですが、その様なことは全くなく、むしろ学ぶことによって強力な武器が2つも3つも増える、という印象を受けました。

例えば、特許戦略というとどのようなことを思い浮かべるでしょうか。

私は「自社で開発した技術が他社の特許(パテント)を踏まないように綿密に時間をかけて事前調査する」とか「アライアンスを組んで作り出した事業企画を他社が独占しないように契約書やNDAで縛りを設ける」とか、どちらかというと後ろ向きなリスク管理、つまり「守り」のイメージを持っていました。

しかし、本書では以下のように言及されています。

知的財産の最も基本的な機能である、アイデアやデザイン、そしてブランドを独占して他社を「市場」から排除、あるいは独占できなくても市場への参入を抑止できる点を自社のビジネス(経営・事業)を成功させるための道具としてうまく用いる、まさに「ビジネスツール」として捉える

つまり、プロフィットをもたらしたり、マーケティングの為の有用なツールとして、経営における「攻め」に活用するという考え方が増えてきているというのです。

宇宙ビジネスにおける知的財産

私が携わっていた宇宙ビジネスにおいても、知的財産は重要な概念となります。

宇宙開発をめぐる激しい国際競争に勝ち抜くために、政府も知財戦略を策定する方向に入っています。

平成30年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究
宇宙分野における知財戦略の策定に向けた研究機関等や国の委託研究による発明の保護の在り方について

https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/document/zaisanken-seidomondai/2018_09_youyaku.pdf

本文書では、これまで官需中心で「一回限り」の製品・サービスが多かった宇宙産業において、知財戦略の必要性が薄かったと指摘。

一方近年の宇宙産業は大きな変曲点を迎えており、民需が急増し、大量生産の必要性が増していることから、より一層の知財戦略が必要になると説いています。

ここで大きな課題が、知財戦略を周到に進めるためには、人財や資金の確保が必要になる、ということです。たとえば、自社の技術が他社特許を侵害していないかを丁寧にひとつひとつ調べ上げることは、膨大な時間がかかります。

また逆に、特許を取得するための申請書類の作成についても同様に膨大な時間がかかるうえ、普段必要とされる技術とはまた違ったスキルが必要となります。

だからこそ、これが出来ることは非常に大きなアドバンテージとなるのです。

誰もがあまり積極的にやりたがらないこういったジャンルの業務に時間を割くことで、あとで大きなリターンを得る事が出来る可能性があることを覚えておくとよいかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました