新規事業創出で使われる様々な「キャンバス」
新規事業創出活動で書籍やWebサイトを拝読していると、そのプロセスとして事業アイデアやモデルを一枚のテンプレートシートにまとめていることが多いことに気付きます。
ところが、ここで出てくる「キャンバス」には様々な種類があるように思われました。
最初はただの表記揺れかな?と思っていたが、よくよく見ると細かい記載内容が異なったりするし、そもそも目的も違ったりします。
私が目にしたものとしては、以下のような「キャンバス」がありました。
- ビジネスモデルキャンバス
- リーンキャンバス
- 仮説キャンバス
- MVPキャンバス
せっかくですので、一旦整理してみることにしました。
なお、記載している内容は私自らが調べたものですので、間違ってたらごめんなさい。
ビジネスモデルキャンバス
【原典】
- ビジネスモデルジェネレーション(書籍)
- しばしば「BMC」と略される
【記載内容】
- CS(Customer Segment:顧客セグメント)
- CR(Customer Relationships:顧客との関係)
- CH(Channels:チャネル)
- RS(Revenue Streams:収入の流れ)
- VP(Value Propositions:提供価値)
- KA(Key Activities:キーアクティビティ)
- KR(Key Resources:キーリソース)
- KP(Key Partners:キーパートナー)
- CS(Cost Structure:コスト構造)
【所感】
- ビジネスモデル全体の把握、特に既存事業のモデル化に適しているように思います
- 競合のビジネスモデル分析および自身のモデルとの対比に役立ちそうです
- ステークホルダへの短時間での説明に役立ちそうです
- 「課題」を書く欄が無いのが気になりました
【テンプレ入手】
- 「ビジネスモデルジェネレーション」の続巻「ビジネスモデルYOU」を発刊した翔泳社サイトの試し読みPDFで取得可能
新規事業を立ち上げるにあたってビジネスモデルキャンバス(BMC)を書くことがあったのですが、どうもうまく書けないと思ったら、そもそも「課題」を書く欄がありませんでした。詰将棋に取り組んでみたら、そもそも王将が無かった、みたいな感覚でした。
その為、顧客起点のニーズやインサイトの整理には向いていないように思われます。
新規事業の創出やスタートアップというよりも、既存事業の整理の方がうまく書けるような気がしています。
リーンキャンバス
【原典】
- リーン・スタートアップ(書籍)
【記載内容】
- 課題(PROBLEM)
- 既存の代替品(EXISTING ALTERNATIVES)
- 顧客セグメント(CUSTOMER SEGMENTS)
- アーリーアダプター(EARLY ADOPTERS)
- 独自の価値提案(UNIQUE VALUE PROPOSITION)
- わかりやすいコンセプト(HIGH-LEVEL CONCEPT)
- ソリューション(SOLUTION)
- チャネル(CHANNELS)
- 収入の流れ(REVENUE STREAMS)
- コスト構造(COST STRUCTURE)
- 主要指標(KEY METRICS)
- 圧倒的な優位性(UNFAIR ADVANTAGE)
【所感】
- 「課題」を書く欄があり、ストーリーが明確化しやすいと感じました
- 簡潔であり、無駄が無いと感じました
- 「主要指標」でKPIについて言及、「学び」を得やすい形になっています
【テンプレ入手】
- githubにて公開。記事執筆時点でv4.1が最新
リーンキャンバスは、「リーン」の名の通り「無駄が無い」印象で、一枚で完結に整理出来る上に、BMCには無かった「課題」を書く欄がきちんとあり、ストーリー性をもってキャンバスを記載できる印象でした。
仮説キャンバス
【原典】
- カイゼン・ジャーニー
【記載内容】
- 目的
- ビジョン
- ソリューション
- 優位性
- 評価指標
- 提供価値・意味
- 顕在課題・潜在課題
- 代替手段
- チャネル
- 状況・傾向
- 収益モデル
【所感】
- リーンキャンバスにさらにストーリー性を意味づけような感じです
- 「顕在課題」だけでなく「潜在課題」を明記することで仮説を明確化しています
- 顧客ではなくて、その状況や傾向に着目しています
【テンプレ入手】
- 翔泳社「カイゼン・ジャーニー」のサポートページよりダウンロード(※購入者特典の為、ぜひ書籍も買ってね)
【参考】
- 「カイゼン・ジャーニー」著者の市谷聡啓さんが「仮説キャンバス」について整理したSlideShareも参考になります。
MVPキャンバス
【原典】
- AppSociallyの高橋氏とRecruitのMTLが共同で開発
- MVPとは「リーン・スタートアップ」で提唱されている実用最小限の製品(Minimum Viable Product)のこと
【記載内容】
- 仮説(HYPOTHESIS/ASSUMPTION)
- 何を学ぶのか(WHAT TO LEARN)
- 仮説をどうやってそのMVPで実証するのか(HOW TO VALIDATE THE HYPOTHESIS WITH MVP)
- 実証に必要なデータ・条件(CRITERIA OF VALIDATION)
- 何を作るのか(WHAT TO BUILD)
- MVP構築に必要なコスト(COST OF DEVELOPING MVP)
- 実証に必要な時間(TIME OF VALIDATING HYPOTHESIS)
- 回避できる/発生する将来のリスク(ESTIMATE OF FUTURE RISK/CHANCE)
- 結果(RESULT)
- 得た学び(GOAL)
【所感】
- 先の3つのキャンバスとは大きく構成が異なります
- MVPに着目し、それぞれの評価ポイントを明確化。MVPの構築、検証、学びについてのサマリシート、という印象です
【テンプレ入手】
以前はリンクがあったのですが、現在はリンク切れになっているようです。
全体所感とまとめ
整理してみると、ごくごくありきたりな感想になりますが、目的によって使い分けが必要だな、と改めて感じました。
既存事業や競合他社のビジネスモデルと明確化して自社のモデルと比較するならビジネスモデルキャンバスがよさそうですし、課題に着目してストーリーを立てるにはリーンキャンバスがよさそうです。
仮説検証をしたいなら仮説キャンバスですし、MVPを作って実証と学びを得る時にはMVPキャンバスを使うと良さそうです。
私の個人的な「推しキャンバス」は、やはりリーンキャンバスです。
課題や優位性に着目して、ストーリー性がある点がポイントが高いです。特に大企業で新規事業創出活動に従事していると、何よりも、
- なぜうちの会社がそれをやるのか?
- コストと収益(売上・利益)はどうなのか?
をこれでもかというぐらい問われます。それらを1枚で端的に示せる上に、ステークホルダーへ説明するにあたってストーリーをもって説明できるでしょう。これは非常に大きなメリットです。
書くのが難しいのが、
- 圧倒的な優位性
- 主要指標
の2点です。これは本当に難しい。圧倒的(UNFAIR)ってどのぐらい圧倒的じゃないといけないの?定量的な指標ってどんなものを設定すればいいの?と途方に暮れることがしばしばあります。
ただ、これがちゃんと描ければ、少なくとも仮説検証まで持っていってフィードバックを得られ、学習を進める事が出来るため、きちんと描き切れると新規事業の成功確率が上がることでしょう。
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