宇宙開発に学ぶ「早く失敗すること」の重要性

MOMO2号機とH3ロケット試験1号機

2018年にインターステラテクノロジズ(IST)社のの観測ロケットMOMO(モモ)2号機が打ち上げ直後に推力低下、爆発する出来事がありました。

ですが、これは次に繋がる失敗であり、このように失敗が出来るようになったことは大きな成果でした。

一方で、2023年のH3ロケット試験1号機の打ち上げ失敗は、失敗が許されない環境での打ち上げ失敗でした。ここに大きな違いがあったので、今回はそれについて取り上げてみたいと思います。

MOMO2号機の場合

MOMO:失敗の裏に様々なデータ

MOMO2号機の打ち上げ失敗が次に生かすことが出来たのは以下のような観点です。

  • 様々な角度からの映像データ
  • テレメトリデータ
  • 打ち上げ失敗機体の回収

今回は映像も様々な角度から撮影され、稲川社長の記者会見を見ると、テレメトリデータも取得出来ているということでした。

何よりも映像を見る限り、機体がそのまま発射場に落ちてきてくれました。

もしかしたら発射場の設備・機器類は大きなダメージを被ったかもしれませんが、回収した機体の情報は、今後原因究明を進める上で、非常に大きなエビデンスとなります。

1999年のH2ロケット2号機の打ち上げ失敗では太平洋に墜落した為、JAMSTEC(海洋研究開発機構)の潜水艇によって海域を徹底的に捜索し、水深3000mからエンジンなどを引き上げるという一大プロジェクトが敢行されました。

その時の大捜索と原因究明、そして是正策の立案があったからこそ、次のH2Aロケットの開発に繋がったと、日本ロケットの父といわれる五代富文さんが以前述べられていました。

端的に言えば、メトリクスやエビデンスを得ることが出来たので、「次に繋げられる失敗」だったのです。

MOMO:早く失敗して学びを得る

MOMO2号機の時に、日本の宇宙開発の重厚壮大なプロセスにおいて、「早く失敗できるようになったこと」はとても大きな成果だと感じていました。

ソフトウェア開発の現場にいると、試験環境では全く問題なくても、市場に出して実証を始めると、全く予想もしなかった不具合が発生する、ということが多いです。さらに、顧客の反応というものは、市場に出してみないと絶対に分かりません。

「絶対に失敗しない」ことを目指して重厚な品質保証にお金と時間と人手をかけることよりも、「早く失敗して学びを得る」という方が効率的な場合があるのです(全部がそうとは限りません)。

今回も、より詳細な試験を繰り返してれば、もしかしたら失敗は防げたかもしれません。しかし、そこにはROI(投資対効果)というものがある。その詳細な試験を行うことで、多くの予算を使い、打ち上げの時期が延び、市場を失うかもしれません。

そのリスクを冒すぐらいなら、まずは打ち上げを敢行してしまい、上述のようなデータをたくさん取得した方が、効果が高いという場合もあるのです。

民間と国主導の違い、程度の違いこそあれ、このような「失敗」を享受出来る文化になってきたのは、大きな進歩だなぁと感じました。

MOMO:3号機では成功

そしてMOMOは次の3号機で打ち上げに成功します。

初号機は部分的成功でしたが、3号機では日本の民間ロケットとしては初めて宇宙空間に到達したのです。その後現在までに7号機まで打ち上げられており、6号機と7号機は連続して打ち上げに成功しています。

H3の場合

H3:絶対に失敗出来ない状況

2023年3月7日のH3ロケットの打ち上げは、試験1号機という位置づけでした。従って、試験的なものであったはずなのです。

ところが様々な状況が重なり、先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)を搭載することになりました。「だいち3号」は、2011年に運用を停止した陸域観測技術衛星「だいち」の後継機です。12年もの間、日本は光学(可視光で画像を取得するもの)の衛星を運用してこなかったことになります。この「だいち3号」は待望の衛星だったのです。

ロケットは宇宙に人工衛星などの「荷物」を運ぶのが大きな仕事です。宅配便を想像すると分かりやすいでしょう。この「だいち3号」を確実に宇宙に送り届けるのがH3ロケットの大きなミッションだったのです。

H3ロケットは試験機であり、今回が初めての打ち上げでした。初めての打ち上げでいきなり重要な荷物を任されたのです。これは、右も左も分からない新入社員にいきなり貴重な荷物の宅配を任せるようなものです。もちろん準備は入念にするものの、大きなリスクが伴います。

そして、H3ロケットは打ち上げに失敗。数百億円の「だいち3号」は失われてしまったのです。

H3:MOMOとの違い

H3ロケット試験1号機とMOMO2号機は、どちらも打ち上げに失敗しましたが、大きな違いがあります。それは「失敗しても良い状況だったか」です。

もちろんMOMO2号機も成功するに越したことはなかったでしょう。しかし失敗しても様々な学び(データ)が得られるようになっていましたし、それでも良しとされていました。

H3ロケットももちろん様々な学び(データ)が得られるようになっていました。しかし、そもそも「だいち3号」という重要な荷物を宇宙に届けることが求められていたため、失敗できなかったのです。

失敗出来る環境を作ろう

ここから得られる学びとしては、失敗しても良いような環境を作るということです。

みなさんは職場で失敗出来るような環境を作っているでしょうか。初めて行う仕事で重荷を感じていたりしないでしょうか。

失敗することは気持ちとしてもネガティブになりますが、次に向けた学びを得るという意味ではとても大きな成果です。

H3ロケットはこの記事執筆時点では次の2号機の打ち上げに向けて準備を進めています。おそらく次も試験機としての扱いになると思います。ぜひ試験1号機の学びを基にして新しい学びを得られるように頑張ってもらいたいと感じています。

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