概要
事業を立ち上げる際の「はじめの一歩」をどのように踏み出すか、について論じられている書籍です。
本書によると、イノベーションを起こしたとされる企業について、
- 75%は出資者にリターンをもたらしていない
- 95%が財務目標を達成していない
- およそ半数が6年目の創立記念日を迎えられない(5年以内になくなる)
という数値データを突き付け、「はじめの一歩」が大切だよ、と説いています。
タイトルは、「ラストマイル」(ラストワンマイル)にかけたものですね。
イノベーションの3つのアプローチ
冒頭、「日本版に向けて」の序説で、イノベーションには3つのアプローチがあるとして、それぞれの長所・短所が簡潔に述べられています。
- 徹底した分析
- リーン・スタートアップ
- 行動と思考のバランスをとる(この書籍で言及していること)
徹底した分析を通じてイノベーションに到達しようとすると、「行き詰って」しまうとされています。よく大手企業では「ステージゲート制」や「ラウンド制」を敷いているところが多く、事業を立ち上げるにあたってひたすら他社事例などを分析し、壮大な議論を通して、資料を徹底的に準備するが、それではダメよ、と言っているのだと理解しました。
二つ目のリーン・スタートアップについては、行動主義をとっているようにも見える、としていて、考えが伴わないと「やってみた」で終わってしまうことを危惧していると思われます(実際のリーン・スタートアップでは「構築」「計測」「学習」のサイクルを回すことが述べられており、それほど単純では無いと思われますが)
その2点を教訓としつつ、3点目でこの「ファーストマイル」の手法を紹介する、というリードになっています。
「イノベーション」とは
本書では、イノベーションの定義が明確に述べられています。曰く、
- 何らかの価値、特に、従来とは異なる方法で価値を生み出すこと
- アイデアが十分な収入をもたらし、利益を生み出し、(略)、問題を解決できるようになった時点で、初めてイノベーションと呼べる
とのこと。
ひとつ学びを得たのは、
技術的なブレークスルー以外にもイノベーションを起こす方法はいくらでもある。
という一文です。技術力で勝ってきた(と思っている)企業は、他者との差別化を技術でつけようとしてしまいます。ところが、技術がコモディティ化した昨今では、それは非常に難しい。
例えば、財務力、パテント(特許)、顧客とのチャネル、開発プロセス、品質保証、などなど、イノベーションを起こす上での優位性は様々な観点が挙げられるでしょう。
ファーストマイルにおける課題とそのアプローチ
何事も、ゼロからイチを生み出すのは難しいでしょう。
人工衛星も、ロケットを打ち上げ宇宙空間に衛星を放出し、通信を確立してデータを取得できるようになるまでのクリティカルフェーズが最もリスクが高いです。
よくビジネスが順調に動き出すと「軌道に乗った」という言い方をしますが、実に的を射た表現だなぁと思います。
イノベーションにおいても同じで、このファーストマイルにおける問題を解決するには、
戦略上の主要仮説を科学的手法でコントロールすることが必要
と述べられています。
その上で、DEFT(Document/Evaluate/Focus/Test)というプロセスでアプローチすると良いよ、と述べられており、第一部はこのそれぞれについて紹介されています。
- 第二章:アイデアを書き下ろす(Document)
- 第三章:評価(Evaluate)
- 第四章:フォーカス(Focus)
- 第五章:テストし学び、軌道修正(Test)
この第一部では、具体的にファーストマイルで使うツールキットについて述べられています。たとえば、
- アイデアスケッチ
- ビジネスモデルキャンバス
- 4つのP
- 逆損益計算書
などです。それぞれのツールの概要と使い方は、本書を読むとよいでしょう。
個人的な感想としては、本書を読んだらまずは自分の事業アイデアについて「使ってみる」のが一番良いと思います。
事業創出活動への活用
上述の通り、まずは第一部をさらっと読んで、それぞれのツールキットを使ってみるのが良いと思われます。
一番特徴的なのが、財務モデルについてかなり綿密に記載されていることです。
イノベーションを興そうというとき、アイデアを考えたりモノをつくったりするのが楽しすぎて、財務モデルは二の次に考えられがちですが、ここを「はじめの一歩」で押さえておかないと、やがて行き詰まるんだろうな、ということを非常に強く感じました。
少し面倒でも、仮説でもいいから具体的な数字に落とし込んでみて、その収益性をみてみましょう。
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